嘘恋




その手の強さに胸が締め付けられる。






離れたくないと思ってるのは
あたしだって一緒なんだよ。







もう会えないかもしれない。


それでも前に進もうとしている
彼の夢をあたしは見守りたいから。


支えたいから。






「いかないと!ほら!立って!」








腕を引っ張って背中を押した。


今度はあたしがあなたを支える番。








「行ってらっしゃい!成瀬!」






大丈夫。


きっとまた会える。


離れていてもあたしたちなら乗り越えられるよ。






大きな背中がゆっくりと振り返り、成瀬の目があたしをしっかりとらえる。









「…お前独りでほんとに、大丈夫なのか?」







「うん、平気だよ?待つのは慣れました!」







「そばにいてやれないけど、俺がいることを忘れないで。がんばれよ」








「うん。」






「風邪とか引かないように飯とか、ちゃんと食べるんだぞ?」






「うん」





「あとお前すぐ寝坊すっから目覚ましかけて、遅刻しないようにしないとな」





「…うん」







「あと…独り問題抱え込まないで…ちゃんと周りの人頼ってっ」






「…成瀬」





成瀬の瞳には涙が溢れていた。



こぼれないように歯を食いしばって。





唇を震わせながらも必死で伝えようとする彼が、たまらなく愛おしくて。





『行かないで』




喉まででかかった言葉を必死に飲み込み、笑顔をつくった。






彼があたしを思い出す時に
泣き顔なんて、そんなの嫌だもん。




最後は、あたしだけでも笑顔で。




「とにかくっ、…頑張れよ!」





「うん…!」






バイバイ。成瀬。






溢れ出す涙が成瀬の姿を霞ませた。




遠ざかる背中に手をのばしかけて
そして拳を握りしめる。






引き止めることなんか、もうできない




あたしたちはお互いに決めた道を歩いて行くんだ。





これが最後の別れにならないことを信じて。








ねぇ成瀬
あたしなら大丈夫だからね。


成瀬が夢を叶えたように、あたしも自分の道を進むから。





次会えるときまでには、あたしも




そして、涙がこぼれたとき
関村の姿はもうなかった。



一気に熱い何かが込み上げてきて、声を上げて泣いた。


辛くないわけない。
強くなんかない。





だけど約束があるから信じて歩いていける。




一人でも前に進むから。





またあなたと会えて、希望が見えたから。







だからがんばれ、成瀬。



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