嘘恋
「あー。疲れたな!」
「だね!」
ベチョベチョに濡れた服も
太陽が乾かしてくれる。
砂浜に座り、海を眺める。
「俺さぁー、海好きなんだ」
「なんで?」
「でっけぇから!」
「…それだけかぃ」
ははっと笑った成瀬くんはゴロンっと仰向けに倒れた。
「…やっぱ落ち着く」
「え?」
「お前といると落ち着く。ちっせーことでもうれしくなったりするし、これからお前といろんなところに行きたい」
それって…
両思いになれたってことなのかな?
それって…。
「そんなの…あたしは前から思ってたけどね〜」
「香奈」
ふいに真剣な目をした彼があたしを抱き寄せた。
「どうしたの?」
「お前は…どこにもいかないだろ?」
なにを思って言ったのか
あたしにはわからない。
でもね、聞いたらいけない気がしたの。
こんな声でこんなことを言う彼の気持ちはきっと彼だけのもの。
「うんっ。あたしはどこにもいかない。行くわけないよ?」
「…だよな!」
すると立ち上がった彼はおもいっきり息を吸って叫んだ。
『香奈が大好きだー!!』
「もー…ばか」
無邪気に笑う彼はさっきまでの面影は全くない。
その笑顔が、あたしは大好きだよ。
『あたしも成瀬くん大好きー!!』
「そういえばお前さぁくんつけるのやめろよ」
「だって慣れちゃったんだもん」
「咲夜か、成瀬にして」
「じゃあ…成瀬でいい?」
まだ名前で呼ぶのは少し恥ずかしい。
「おう!いーよ」
二人の足跡が、誰もいないこの場所に
刻み込まれ、海に消えた。
「ここは、俺と香奈の場所な。誰にも教えんなよ?」
「うんっ!」
ふたりの場所ができた。
初めてが多すぎてなんだかドキドキしっぱなしだよ。
こんなふうにいろんな体験をさせてくれる成瀬が大好きです。
あたしをからかって楽しむけど
優しくて暖かい彼が大好きです。
この幸せがずっと続けばいいのに。
そう、思ってた。