嘘恋
「え!な…成瀬くんあたしの隣なの!?」
「そんな驚く?」
成瀬くんが指差す方をみつめる。
私は窓側の一番後ろの席。
その隣には
成瀬咲夜。
「書いてた…」
「そんなに俺のこと嫌なのかー。」
「なっ…ち、違うよ!むしろ好きな方だし。かなり」
…っぬぉ!
なにを言ってるあたしっ。
成瀬くん固まっちゃってる!
「や、違っそういうことじゃなくて!勘違いしないでね?」
「あ、違ったんだ。残念」
「…え?」
「覚えてる?あの入学式のときのこと」
入学式のこととはあのマフラー事件のことだろう。
そんな二年前のこと覚えてくれてたんだ…。
あたしが忘れるわけない。
だって好きな人との出会いだもん。
「うん。覚えてる!」
「まじで運命かなって思ったけど、こんどは同じクラスになって隣の席ってさ。なんかすごいね、俺ら」
「や、やばいっす!」
「だよな!」
これからこの人が隣の席!?
明日からしばらく成瀬くんの隣でこんな幸せな会話ができるなんて…
幸せすぎ!
こんなにも近くで話せてるし、あのマフラー事件以来全然話したこともないのにこんなに自然に…。
成瀬くんの笑顔を、こんなにも間近で見ることができるなんて…思ってなかった。
たまに廊下ですれ違っても成瀬くんはあたしの存在にすら気づいてなくて
もう忘れちゃったと思ってたのに。
…やっぱり、好き。
「ちょっとあんたら、あたしの存在忘れてイチャイチャしないでよねー?」
「や、イチャイチャなんてしてないし!ミカのばーか」
「ミカっていうの?俺、咲夜ね。よろしく!」
「うん、じゃ呼び捨てで呼んでいい?」
「ん。おれもミカって呼ぶ」
初めて話したのにもう呼び捨て!?
…こんな時ミカが、うらやましい。
どうしてそんなにフレンドリーなんでしょうか。
や、この成瀬くんもかなり人懐こいけれども。
あたしなんて
目を見て話すのもままならないのに。
「おーい。ボーッとしてどうした?」
「…なんでもなーい」
机に伏せてため息をつく。
…だめだなぁ。
なに嫉妬してるんだ。
ミカにまで嫉妬するなんて子どもじゃんあたし。
成瀬くんの彼女でもないのに。
「…ふーん?こいつ、いっつもこんな喜怒哀楽はげしいの?」
「さぁ?しばらく隣にいれば香奈のこともわかってくるんじゃない?ねっ、香奈」
ミカはポンっとあたしの頭を撫でて自分の席に戻っていった。
ミカってば、完全にからかってる…。
「香奈、よろしくな」
おっきい手があたしの背中を軽く叩いた。
…香奈って呼んでくれた。
しかも背中に触れた…!
えへへ。
「うん、よろしくね!成瀬くん!」
あたしも単純な女だ。
「おっ元気になった」
あたし、決めた。
成瀬くんに彼女ができる前に
あたしが彼女になってみせる!
明日から、作戦開始します!