嘘恋






棚の上に、開封済みのプレゼント箱がおいてあった。

…こんなの、前来た時あったっけ。
こんなこと良くないんだろうけど…ええい開けちゃえ!

周囲を気にして開けてみると中には帽子が入っていた。

手にとってじーっと見てみる。

値札ついてるからきっとまだ使ってないんだと思う。
自分で買ったのかな?
でもこれ、絶対成瀬に似合いそう!

かぶってもらおーっと。

帽子を持って、下へと降りた。

「なーるせ!」

「おー。やっと来…」

「この帽子かっこいいね!」

成瀬はあたしが持っている帽子を見て目を見開いた。
明らかにいい表情ではない。
もしかして…まずかった?

「あ、えっと、これ成瀬にかぶってもらおうと…」

「勝手に触んなよっ!」 

「え…?」

驚く間もなく、力任せに帽子を奪い取られた。
あまりの迫力に、体が固まって頭の中が真っ白になった。

な、に…?

そんなあたしを見て、はっとした成瀬は悲しそうに顔を歪めた。

「あ…いやごめん。これ結構気に入ってるからさ!いきなり持ってきてびっくりしたんだよ」


そう言ってムリに笑う彼に
違和感を覚えた。

…大事にしているからって、こんなのおかしい。
そこまで物欲あった?
値段だって特別高いわけでもなかった。
怒る理由なんて、もう一つしかないじゃん。



「…誰にもらったの」

声が震える。
これは、女の勘。

「え?」

「誰にもらったのっ!」

嫌な予感がした。

「…誰でもいいだろ」

彼の瞳が逸れる。

「もしかして…元カノからもらったの?」

ただの勘違いかもしれない。
成瀬はあたしを好きだと言ってくれた。

その日から元カノの存在は過去になったはずで、あたしはそれ以上になったんじゃないの?

それに、元カノは姿を消していなくなったんじゃないの?
最近までなかったこの贈り物を、成瀬はいつもらってたの?

「ねぇ成瀬ってば」

問い詰めても、彼は何も言わなかった。
この沈黙が胸を締め付ける。

本当はこんなこと聞きたくないのに。
違うよって言って安心させてよ。
嘘でもいいから。
だって意味わかんないよ。

涙なんかよりも次第に怒りが、あたしの心を駆け巡る。

「それ貸して」

「いいって。こんなのいいから座れよ。ほら用意できたからさ!」

「いいから貸してっ!」

どうでもいいわけない。
いつも優しい成瀬だから、怒鳴られたのは初めてだった。

その理由が元カノかもしれない状況でどうでもいいわけないじゃん。

うそつき。

成瀬の手から帽子をおもいっきり奪い取った。


「…っおい!」





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