嘘恋
「なによっ!?」
どうして、
そんなに必死になるの。
「なんでそんなに嫌がるの?まだ元カノに未練あるわけ?」
「…未練なんてねーよ」
「なら、なんでこんな大事そうに持ってんの?あの人は…もう成瀬の彼女じゃないんだよ!?」
「…わかってる」
「わかってないじゃん!……捨てる」
「は…?おいっ、やめろって!」
あたしから帽子をとろうとする成瀬の力が強くて痛い。
この力が、元カノをまだ愛してる彼の怒り。
「なんで!?いーじゃん捨てたって。もう未練ないんでしょ?」
「っ…いい加減にしろよ!」
「きゃ…っ」
ドンッとおもいっきり肩を押されて床に尻もちをついた。
「…っ」
「っ…」
もう、耐えられない。
こんなの…ひどいよ。
涙で霞む視界。
こんなとこで、泣きたくなんてないのに成瀬があたしに手を伸ばした。
「ごめんね香奈。大丈夫か…?」
大丈夫か、なんて。
それほど
…まわりが見えなくなるほど
元カノを想ってるってことなんだよ?
あたしのことを突き放して、
元カノからもらった帽子をこんなに大事にして。
あたしのこと、好きだって言ったくせに
結婚しようとか言ったくせに
まだこんなにも
消えた彼女を想ってるんだね。
「香奈!」
彼の手を振り払い、リビングを飛び出して部屋に駆け込んだ。
そしてベットにもぐり息を殺して泣いた。
あたしと付き合ってから
足早に過ぎていった時間。
それまでにたくさんのことを経験した。
たくさん愛して、愛されたの。
それなのに
まだ元カノへの想いは消えてなかったの?
あたしのことを突き放してまで、あの帽子が大事だっていうの?
あれだけ一緒に過ごしても
あたしじゃ、だめなの?
指で輝く指輪。
そっと手を握りしめる。
あたしの気持ちも考えてよ…。
すると、ガチャっと部屋のドアが開く音がした。