嘘恋
突然の電話。成瀬*
「…よし」
帽子を持って家を出た。
外の風が冷たくて、体にしみる。
きっと
俺がこの帽子を捨てれなかったのは
一つでも、サナといた証を
残しておきたいと思ったから。
あいつが消える前
別れる理由も言ってくれなかったから嫌いになれなくて
胸の中でモヤモヤしたまま、いつまでも心の中に残っていたんだと思う。
でも、もう迷わない。
あんないきなりいなくなったやつのことなんか忘れる。
俺は香奈と幸せになるんだ。
広い公園に着いて、ライターで帽子に火をつけた。
ためらいなんて、もうないよ。
前に進まなきゃ。
ー…さよなら。
黒くボロボロになった帽子を見届けて火をけした後、俺は家に向かった。
その時
一本の電話がかかってきたんだ。
耳を疑った。
付き合っていた当時、俺はサナの電話着信だけ音を変えていた。
そして、今なっている音楽は
…サナからの着信音。