嘘恋
心拍数が早くなる。
変な汗が背中流れた。
そのまま放っておけばよかったのに手が勝手に動いてしまって
そして、ゆっくり耳に当てた。
「…あ、ナルかな?」
懐かしい声
サナの声を聞いたのはいつぶりだろうか。
高くて、静かで、涙腺が緩む。
「…おう」
「サナ…だよ。覚えてる?」
…風邪でもひいてんのか?
具合悪そうだ。
いや、それとも、もともとこんな感じだったっけ。
しんみりした雰囲気を壊したくてわざと明るくふるまった。
「…忘れてた!俺今すっげー幸せだからさ!」
ウソをつくと、人は声とは裏腹に笑えなくなるんだな。
「そうだよね。…あたしのことなんて、もうなんとも思ってないよね」
「あぁ。……思ってないよ」
ポケットの中で拳を握りしめる。
「なら…言わない!ごめんねいきなり電話しちゃって。どうしても、声聞きたくなったの」
そんなサナの言葉に心が揺らぐ。
何を言わないっていったんだろう。
俺に、何を伝えたかったんだろう。
聞かなきゃよかったのに
俺、すごい気になってさ。
「…なーんだよ!せっかく電話してきたんだからさ、話せば?俺時間あるし」
すると少しの沈黙の後、サナが口を開いた。
「…あたし、まだ咲夜が好きなの」
「…え?」
「理由も言わないで別れたのは」
「…っ」
理由を聞いたとき
ほんとに息が止まるかと思った。
『癌だって、言えなかったから』