嘘恋
こんな時間にだれだ?
何回も慌ただしくチャイムが鳴るから急いで扉を開けた。
「あーさむい!中入るわよ?」
え…。
そう言って靴を脱ぎ、そそくさとリビングに入っていった女性。
「母さん!?」
その後を追って俺もリビングに向かう。
「はぁー、疲れた」
「疲れたって…なんで」
「その前にコーヒー入れてちょうだい」
「あ、うん」
父さんはさっき電話した時、母さんがこっちに行ったって言ってた。
…はやくね?
「はいどーぞ」
「ありがと。あーあったまる!」
…久しぶりに見た。
笑いジワが特徴的な優しい母さん。
高校一年の時にはもういなかったから3年以上は会ってなかったんだ。
「お父さんから連絡はきた?」
「きたよ、さっき」
「そうなの。……で?どうするの?」
「まだ決まってない」
「…どっちで迷ってるの?」
どっちって聞かれても
わかんねぇよ。
まだ子供な俺は
どっちかなんて、選べない。
「…あたしはね、咲夜とあっちで暮らしたいと思ってるの」
「え…?」
「いまさらだけど、やっぱり自分の子と住みたいなって。そしたらなんかあってもすぐ駆けつけるじゃない?」
微笑む母さんの目には少し涙がたまっていた。
「咲夜だって、サナちゃんのこと…」
「俺、新しい彼女ができたんだよ」
「…え?」
「今はそいつと一緒にいる。結婚もするつもりだし、今すっげぇ幸せなんだよ」
サナと付き合ってた時
母さんはサナをやけに可愛がっていた。
だから別れたってことも、母さんには言ってなかった。
いつか言おうと思っていたけど、なかなか言える機会がなかったから。
「だから簡単にそっちにはいけない。サナのは俺にはもう…」
バンッ‼︎
俺の言葉を遮るように、テーブルを叩く母さん。
びっくりして顔をあげると
母さん目からは涙が一筋流れた。