嘘恋
「…なにをいってるの?あたし、なにも聞いてないんだけど」
「ごめん。ちゃんと言おうとしてたんだけどタイミングがなくて」
「タイミング?…どこの誰かもわからない子と結婚まで考えてるなんて、正気?」
「本気じゃなかったらこんなこと言わないさ」
「うそでしょ…。サナちゃんとの時間は?あの子ほどあなたのこと愛していた子はいないわ!あなたそんなに軽い男だったの!?」
「ちがう。俺だって、色々あったんだ」
軽い男になれたらどれだけ楽か。
確かに、サナと居た時間は幸せだった。
だけど理由もなく別れを言われて連絡も取れなくなって、姿を消したのはあいつだろ。
家族もいなくて、サナもいなくなってから俺はずっと一人だった。
おれを変えたのは、お前だろ。
「…ダメよ許さない。サナちゃん以外の子と結婚なんて許さない!」
「っ、おい!」
ヒステリックに叫ぶ声と共に床に叩きつけられたグラスが飛び散る。
「あなたは次に進んで幸せかもしれない。…だけどサナちゃんはずっとあなたを想って苦しんでた…。違う!?」
「んなこと、今更言われたって仕方ねぇだろ!だったら全部最初から言えよ!何も知らないで残された俺の気持ちも考えろよ!」
「…よく考えなさい。クリスマスにはここ発つから」
そう言い残して、リビングを出て行った。
『クリスマスに発つから』
クリスマスって…あと一ヶ月もねぇじゃん。
散らばった破片をを拾い集めながら唇を噛み締める。
俺だって、混乱してんだ。
自分の都合で俺を捨てたと思っていたのに病気だったから俺を想って離れたなんて。
母さんがあぁなるのもわからなくはない。
だけど、俺は何も知らなかった。
あれから何年経ってると思ってるんだ。
もう…会うこともないと思ってたのに。
サナ。
なんでお前は今になって俺を求めてくるんだ。
どうせならウソをつき通して欲しかった。
そのまま姿を消してくれてれば何も変わらなかったのに。
…なんて思う俺は最低なのかな。
命が長くないことがわかったから、最後に俺に会いたくなったのか。
…ほんとに、ずるいな。
腕で目元を拭った。
クリスマスまであと、2週間。