嘘恋






放課後になって、クラスの生徒達が下校していく。






それでも信じたくて


あたしだけ帰れずにいた。








「香奈…そろそろ帰ろ?成瀬くんきっと来れない事情があるんだよ」






「…ごめん。ミカ先帰ってて?あたしもう少しだけ待ってみる」







「…わかった!じゃあばいばい」







「うん。ばいばい」







きっと、成瀬は来ない。
わかってるのに、心のどこかでいつも期待してしまう。


タダ意地を張ってるだけ。





…成瀬はウソなんてつかないもん。




約束、守ってくれるもん。






無理してでも笑う優しい人だから、きっとあたしのこと放っておけないでしょ?





…なんて、いつまで彼の優しさに甘えてるんだ。








窓の外を眺めて校門を眺める。








一瞬だけでもいい。すれ違いでも
元気な姿を見れたら安心できる。





早くあたしを安心させてよ…成瀬。








窓から見えていた生徒の後ろ姿がどんどん消えていく。








眩しく照っていた太陽も、しだいにオレンジ色に染まり始めた。




…もう帰ろう。





荷物をまとめ、重たい体を持ち上げた。


明日来てくれるのを待とう。




「っ?」



ふいに、窓の端に映った黒い影。
走って校門をくぐり抜ける一人の男の姿。








真剣な彼の横顔。





懐かしい面影。


心臓が高鳴る。





…あれは






「…っ」







急いで席を立ち、教室を出た。






無我夢中に走り、階段を下りて玄関へ。






転びそうになりながらも、必死に走った。



間違いない、だってあれは





「……あれ」






だけど、そこにその姿はない。








するとふいにフワッと後ろから大きな腕に包まれた。









「っ…」












「だーれだ。」










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