嘘恋






ピンポーン







合い鍵はあるけど、使うのをためらった。






なんとなく…不安だったから。





するとすぐガチャっとドアが開いて成瀬が微笑んだ。









「ったく。おせーよ!腹減ったぁ」







久しぶりだぁ…。





元気そうでよかった。






「ごめんごめんっ。だって成瀬いきなり言うからさ〜」









あたしから買い物袋をさりげなくとって、袋の中をのぞいていた。









「お?なんかすげー大量だな」








「今日はね、寒いから鍋にしたの!」







「おっいいじゃん。俺鍋食べたかったんだよなぁ」









「本当?よかった!じゃさっそく作るから待っててね!」








ソファーに成瀬を座らせてあたしはキッチンに立った。





よし。



「俺も手伝うかー?」







「いーよ。座ってて!」







「ケガしないように気をつけろよ?」








「はいはーい」









成瀬がテレビを見てる間にあたしは鍋をつくる。






鍋なら失敗することないし、安心。




やっぱり女子って料理出来ないとね!




最初の味が肝心。


今日は初めて彼氏に作る手料理なんだから、鍋だけど慎重にね。





なにかと苦戦しながらもかなりいい感じに仕上がった。






「…できた。成瀬ー!できたよ」








そう叫ぶと勢いよくこっちへ振り向いて駆け寄ってきた。









「すっげーいい匂い!」









フタを開けようとする成瀬の手をペチッとたたいた。








「だーめ。食べるときまでガマン」








するとわざとらしく唇を突き出して笑っていた。





なんか…いいなぁ。



あたしたちが結婚したら、こんな生活が当たり前になるのかな。




そんなの幸せすぎるよ。







「あのさ、これ俺の部屋で食べよ」







「え?部屋で?」






そう言って成瀬は鍋を持ち上げた。







「ん。コンロあっから平気だよ」








まぁ、たしかに成瀬の部屋はあたしの家のリビングぐらいあるからなにも気にならないんだけど…。







「なんでここで食べないで部屋なの?」







「…実は今母さんこっちに来ててさ」







歩き出す成瀬の後ろをついて行くあたし。







「え!?じゃあ今家にいるの?」








「いや、今は出かけてるからいないよ。まぁいたとしても二階には上がってこないから大丈夫。」









「そっか…」









でもあいさつもしないで勝手にここにいるのはよくないんじゃ…?




「あいさつしたほうがいいんじゃないかな?」








「あ、しなくていいよ。俺の親うるさいから」








うるさいって…どういうこと?






すると、ほらっと言われて言われるまま部屋に入った。




ベットの前に2人並んで座り、テーブルの上に鍋を置いた。







「よしよし。開けていい!?」







「いーよ!」







フタを開けた瞬間、暖かい煙がホワンっと浮かび上がる。







「うわ、うまそー!」






「たべてたべて!」







「いただきまーす」







「どう、どう?」







「ん。うまーい!」









そういって黙々と食べ始めた。







まさかこんなに喜んでもらえるなんて思ってなかった。






なんかすごく…嬉しい。








自分で作ったものを誰かに食べてもらうことなんて友達以外になかったから




なんかすごく新鮮な感じがする。









結婚したら彼が仕事帰ってきてあたしが作ったご飯を二人で食べて。









…早く、大人になりたいなぁ。








美味しそうに食べてくれる彼を見てるとあたしまで笑顔になれる。









「ほら、香奈あーん」








「えー?恥ずかしいよぉ〜」








「いいから。ほらほら」









照れながらも口を開けると、とんでもなく大っきな豆腐が入ってきた。








「ぷほっ!」







熱すぎて、ぽーんっと口から飛んで行った豆腐くん。







「熱いよ!!」







顔を真っ赤にするあたしをみて、成瀬はゲラゲラと笑った。




「豆腐おとすなぁ!」








「成瀬のせいじゃん、ほら、成瀬あーん」








「うわ。どーせ仕返しでもするんだろ!」







「しないって!ほら、あーん」










目をぎゅっとつぶって口を小さく開ける成瀬。








ほんとは仕返ししようと思ったけど…。








気が変わった。






チュ…。






触れるだけのキスをすると成瀬は驚いたように固まった。








「えへっ♡」








わざとおどけて笑うと急に床に押し倒された。






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