嘘恋





目をそらして思いっきり走り
もとの部屋のベットに潜り込んだ。











…見なきゃよかった。










成瀬が







サナさんの写真を眺めてたことを。









…なんで、なんでなんで。






いまさら、どうしてあんなの見てるの?







思い出のモノ捨てたんじゃないの?



あたしといるのに、サナさんのこと考えてたの?



いないと思ったら、これか。







今日はクリスマスイヴだよ?





今日という日になんで。







目尻がジワジワと熱くなる。




これなら起きなきゃよかったよ…っ。







するとドアが開く音がした。









「香奈…?」






「っ…」








「…起きてんのか?」











目をつぶって寝たふりをした。




すると、あたしが向いている方に来てしゃがみ込む気配がした。




そっとめくられた毛布。







「…見たのか?」






大きな手が、あたしの頬を撫でる。





その手があたしの頬に流れていた涙を拭ったんだと気づいた。







…拭うのを、忘れてた。









それでも寝たふりを続けた。





目を開けたら、溢れてしまいそうだった




今まで抱えてきた不安が

全部。






すると成瀬の手がさっと離れた。






「香奈。…起きたら下に来てね」







そう言って、足音が遠くなっていって
ドアの音とともに消えた。









すると、その瞬間涙が込み上げてきて






毛布に顔をあてて、ひとりで泣いた。







涙を拭うくらいなら




優しくするくらいなら





泣かせたりしないでよ。







どうしてあたしを不安にさせるの。












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