嘘恋





着いたのは20分くらい後。







「…さっぶ」






「ははっ!まぁまぁ下降りよーぜ」








見覚えのあるこの景色。









夏に来た時とは違う風の冷たさに鼻がツンっと痛い。




冬の澄んだ空気とオレンジ色の夕陽が照ってキレイに海に映し出されていた。








「なんで海なのー?」





「いーじゃん。俺たちの思い出の場所なんだし」








成瀬は砂浜にドデーンっとあぐらをかいた。






「そうだけどさ…」







あたしも成瀬の隣に腰を下ろして縮こまるように体育座りをした。







…たしかに夏にデートでここにきたけど。


気温を考えてよ〜。寒いなぁ。



そんなあたしを見て、いつの間にか持ってきてくれていたタオルケットをあたしに掛けてくれた。







「香奈」




「なぁに」





「お前の夢ってなに?」





「夢かぁ。ん〜、保育士とかになってみたいなぁ。子供好きだし」





「おー、いいじゃん。香奈に絶対似合うと思うよ!」





「成瀬は?」



ザーッと音を立てる波が引いてキラキラと砂浜が光る。



そっと成瀬を見てみた。





海を眺める彼の横顔は



夕焼けの色に染められていて
少し、哀しそうにもみえる。



なんとなく、いつもと雰囲気が違うことに気がついていた。






「俺はやっぱり医者かなー。父さんの後を継ぐ気はないけど、どっか小さい病院とか〜そんなとこ!」






「ふーんそっか。いいね!」





「おう。だから、お前がどっか悪くしたら俺が見てやるからな!」






「えー、成瀬が?こわいなぁ。」





「はぁー?なめんなよ?俺様の手にかかれば余裕だし」





「うわー。どうだか」





「ホントだよ。…俺、お前のためならどんなことだってやり遂げる自信ある」





「…バーカ」





「お?なんだとー?」





ふざけあってると、突然成瀬が立ち上がりどこかへ走り去った。








「ちょ、成瀬ー?」





あたしの声におもいっきり振り返った彼の手にはなにやら黒いものが。






「え…」





「おらああああああ!」







その黒いものを振り回しながら
満面の笑みで走ってくる成瀬。








「ぎゃあああああああ!」






あたしも慌てて立ち上がり走り出す。






そんなあたしを見て成瀬はバカみたいに笑い転がった。





ワカメだったのか昆布だったのかよく分からない海藻が成瀬の横に広がってた。








「もー。成瀬!」





仰向けに寝っころがる彼のそばまで駆け寄り、隣に座った。








あらためて海を眺める。





この果てしなく続いていく海に


終わりなんてあるのだろうか。







あたしたちが今こんなふうにそばに居ることも、この海みたいに永遠に終わりなく一緒にいられたらいいのに。



成瀬とだったらあたし、どんなことも乗り越えていけると思うんだ。


…どんなことも。










「キレイだね、海」






「…なぁ香奈」






「ん?」







波の音が少しずつ大きくなる。



さっきまで聞こえていたカモメ達の声もいつしか消えていた。






「やり直そうか、最初から」




『やり直す』少し違和感を感じた。




「…そうだねー。全部洗い流してふたりでまた一緒に」







『歩んでいこうね』





そう、言いたかったのに





「違う」




「え?」





「今度は俺達、別々の未来」






「…別々?」





言葉が理解できなくて苦笑いしか出てこない。




隣で寝そべる成瀬を見つめる。

空を眺めていた彼の目が今度はあたしを捉えて。









「別れよう」









夕陽が一瞬にして海へと落ちた。


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