嘘恋
走って、走って。
目の前の道を無我夢中で駆け抜ける。
どこからか聞こえるカエルの鳴き声。
暗闇を照らし出す、太陽みたいな月。
ポツンと灯っている蛍光灯の下にしゃがみこんで足に顔を埋めた。
今日はクリスマス。
あたしたちは
ふたりで幸せに過ごすはずだった。
いろんなことがあったねって、それでもここまでこれたねって
彩られたツリーを眺めながら、ふたりで笑いあってるはずだった。
それなのに、どうしてこうなっちゃったの?
この日をどれだけ楽しみにしてたか
成瀬にわかる?
プレゼントを選んで、何をするか、どこに行くか、何日も前から予定を立てて
カレンダーにつけた丸印が近づいてくるたびに心を弾ませた。
…それなのに
成瀬にとってこの日は
最後の別れを告げるための口実だったの?
今日の出来事も全部、最後の思い出にするため?
映画を見たのも、手を繋いだのも
…全部。
あぁ、結局あたしじゃダメだったのか。
成瀬は最後の最後でサナさんを選ぶんだね。
「最低…」
ポツポツっと、あたしを濡らす12月の雨は
やけに静かでなんだか心地よかった。
だけど、冷たさも寒さも感じなかったのは、あたしの心が凍えているからだろうか。
頬には雨とは違う雫が流れて
その部分だけが暖かい。
サナさんが…羨ましいなぁ。
あたしじゃ足りない何かを、彼女は持ってるんだね。
傍にいないのに、成瀬の心を鷲掴みにすることが出来るなんてさ、
そんな彼女に、あたしなんかがかなうわけないじゃん。
うつむいたまま、目をつぶる。
すると、どこからか誰かの足音が近づいてきた。