嘘恋
雪がしんしんと降る中、駆け抜ける。
信じられないから。
確かめないと諦められないよ。
信じられない…っ。
昨日のことがあっても、目が覚めたら夢のように思えてきてさ。
現実味が無いせいか、期待してしまう。
成瀬のあの傘はあたしの家にはなくて
だけど指輪も確かにどこにもなくて。
「…成瀬」
たどり着いたのは…成瀬の家。
どこの部屋の明かりもついていなくて、物音さえも聞こえてこない。
いてほしい、出てきてほしい。
ピンポーンっとチャイムを鳴らす。
「成瀬ー?香奈だよー!」
何度チャイムを鳴らしても誰かがでてくる気配はない。
おかしいなぁ。
「…っ」
ポッケからだしたのは…合鍵。
もらってから、あの言い合いがあってから一度も使ってなかった。
それはね、自分で開けたときに彼が何をしてるか怖かったから。
もしかしたらサナさんとの思い出のものを見返していたり、そんな光景を見てしまうのが怖かったの。
だから、いつも彼に迎えてほしかった。
だけど、今日改めて使うね。
錆び付いた鈍い音、微かに震える手は12月の寒さを感じさせた。