嘘恋




不気味なくらい静かで、暗い。





「…っ成瀬」







電気をつけて、リビングへと向かう。








そして






現実を知る。










「あれ…?」









中はまるで殺風景。






成瀬と見ていたテレビも


二人で笑い合いながら語ったテーブルもイスも全部なくなっていた。







ただ、広い部屋にあたしの呼吸と心臓の音だけが響き渡る。









…やだ。







「成瀬っ!」









二階に上がり、成瀬の部屋のドアを思いっきり開けた。









「…っ」










…なんで。








綺麗なこの部屋には、まるで最初から人が住んでなかったみたいで






あたしたちが過ごした思い出も
まるで…ウソみたいで








「…っやだぁ」









力が抜けて床に座り込んだ瞬間、涙が溢れた。








やっとわかった。










成瀬はほんとに、行っちゃったんだ。










もう、会えないんだ。










ほんとに…あたしを置いてサナさんのところに行っちゃったんだね。









わかってたはずなのにこんなところまできて、いるはずのない彼を探して






…バカみたい。











でもね、ほんとは逃げてたんだ。




あんな別れ方をして後悔してるの。





引き止めてればなにか変わってたのかなって。







彼が背を向けた時、行かないでって言ってれば少しは考え直してくれたかなって。







素直になれてたら
わがまま言っていたら





今も隣にいてくれてた?







「…寒いよ」






暖かかくて、眩しかったこの部屋は今じゃ寒くて凍えてしまいそうなくらい冷たく感じた。




ただでさえ広いこの部屋は、なにもなくなればこんなに寂しく感じるんだ。





ほんとに…なんにも残ってない。










ねぇ成瀬、

確かにあたしたちはここにいたんだよね?







ここで過ごして、抱きあって、一つになってさ






それなのに




なんだか全部ウソみたいに思えてきちゃったよ。





結局



その程度だったのかな、あたしたち。


成瀬の言葉は、どこまでがホントだったんだろう。








涙をぬぐって、窓を開けた。







冷たい風が涙で濡れた頬をひんやりと冷やす。








「…もう、無理なんだね」









自分に言い聞かせるように呟いて瞳を閉じ涙をほろった。












もう…忘れよう。





いままでのことも、全部。









付き合った時間は1年もないけど

あたしがあなたを好きだった時間と想いは

誰にも負ける気がしないよ。








この先




あなたを忘れることはないでしょう。










あなたを嫌いになれないから



せめてあたしを置いていった最低な男って記憶に残しておく。







さっぱり水に流して

また歩き出せるように。










あなたは

サナさんのそばで幸せに生きてください。












あなたと出会って






あたしはたくさんの経験をしました。









切なさの意味も、両思いになれた喜びも



すれ違いう苦しさも



全部、最高の思い出です。










あなたはあたしの初恋でした。









あなたと過ごした時間は消えることのない
思い出にしまっておくから












だからあなたも





こんなあたしを







忘れないで。











風を感じながら、目を閉じる。







思いかえるのも、今日で最後にするよ。





多分、今切り替えないとあたしはもう前に進めなくなる。





それだけ、本気で愛してた。






だから








せめて今だけ











ここで泣かせてください。






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