嘘恋









「あのね、ここのお好み焼きやさんすごく美味しいって有名なの!入ろ?」






「えぇ、俺お腹すいてないんだけど」






「いいからいいからっ」









無理やり腕を引っ張って中へと入る。





まえから来てみたかったんだけど、みんな都合が合わなくて1人で行けなかった。






美味しそうな匂いで充満した店内には
スーツを着た人たちがたくさんいた。








「あ、好きなの頼んでいーよ?今日は先輩のおごりだぁー!」







「じゃあ豚玉とモンジャと焼きそばと…」







「ちょちょちょちょ」





あなたお腹すいて無いとか言ってなかったかーい。




この男


限度というものを知らないのね…。









「つか、初めて会った人とこんなふうにご飯食べんのはじめて。俺こっちの人じゃないしさ」







「たしかにあたしもこんな積極的なの初めてかもなぁ。あ、なら一人暮らし?」





「うんそうだよ。おばさんはでも仲良くなれそうだね。」





「ちょっと、おばさんやめてよ香奈って名前があるんだから!」







それぞれ頼んだものを焼きながら、あたしはビールを喉に流し込む。





もう二十歳すぎたからお酒オッケーだもんね〜!




「うんまぁ〜!」



お好み焼きとビールの相性最高だね!






「あんたそんな飲んで大丈夫?」





「だって美味しいんだもん!」






「…あのさぁ、もし俺が変な奴だったらどうするんだよ」






「シオンが変な男なわけないじゃん!あたし、見る目だけいいんだよー?」







「へー。じゃ付き合ってきたやつもみんないいやつなの?」





ふと思い浮かんだあいつの顔。





…付き合ってきたやつ、かぁ。




あぁ、ダメだ。
やっぱりまだ思い出すと胸が痛くなる。




…やば、顔に出ちゃう。





変な空気にしたくなくて、わざとおおげさに笑った。






「あたりまえじゃん!すーっごくいいやつだったよ〜?」






「………」







「かっこよくてー、優しくて。嘘が下手くそなの!いっつも明るくてさ、直球で。それで…」







「うんうん」






「優しすぎて、あたしは嫌いだった。いっつも矛盾だらけでさぁ。…最低な奴。今は大っ嫌い!」








あははっと笑ってビールを一気に飲み干した。







ほんとは…思い出したくないのに。

忘れられない、忘れたくない人。





…結局、今も忘れられなかったよ。






すると、あたしをまっすぐに見つめていたシオンが口を開いた。









「嫌いな奴の話する時の顔じゃねーけどな」





口に溜め込んだお好み焼きをごくんっと流し込んだ。





「そんだけ好きだったってことだろ」







「…まぁ」







「無理に笑わなくていーから。嘘が下手くそなのは、あんたもだろ」








「…っ」









シオンの言葉が胸に直球にぶつかってきて、涙が出そうになる。







『嘘が下手くそ』




そんなこと…ないもん。







「なによっ。はじめて会ったのにえらそうに言わないでよね!」







ビール!と叫ぶとシオンもジュースを頼んで二人で飲みほした。









「っ…はぁ!やー、美味いねぇ」








「あんたさ、顔真っ赤だけど」








「うっさいわね!ほっといてよ…」









何も嫌なことなんてないのに泣きたくなるのはきっと酔ってるからだ。






あぁー。やばい抑えれない。










「なーに泣いてんの」








「だってぇ〜あたし捨てられたんだよ?元カノのところに行っちゃったんだ。可哀想じゃない?」








「はいはい。わかったからもうやめろって」







片手に持っていたビールを奪い取られてシオンに飲まれてしまった。










「ちょっとっ」








「はぁ…っぷ」









「汚いわね〜げっぷしないでよ。」







「…あー、俺も飲むかっ。」







「おしっ!その粋だー!」



シオンもビールを頼んで2人で飲み始めた。




シオンの頬がほんのり赤い。





もしかして、この子も酔ってきたな?










「あははっ!酔ってきたなぁ?」









「…俺もさ、お前と一緒だよ」








「え?」









「お前の話聞いてやったんだから、俺の話も付き合えよ?」









そう言ってこほんっとわざとらしく咳をした。
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