嘘恋
「俺が好きになったやつは同じクラスの同級生の女で、もともと彼氏がいるやつだったんだよ」
「わぉ。彼氏持ちか」
「でも俺スッゲー好きでさ。彼氏いても関係ねーつって、アタックした。実は彼女のほうも俺のこと気になってたらしいんだよね」
…酔った勢いなのか、やけにしゃべるのね。
うんうんっと頬杖をつきながらお好み焼きを頬張る。
「でさ、すげー頑張ったら彼女のほうも俺のこと好きって言ってくれてさ。最後には彼氏振ったって俺のところに来てくれたんだ」
「おー。すごいねそれは」
「だけど、ほんとはウソだったんだよ。別れたっていうのが」
「はぁ?なにそれ最悪」
「あっちはさ、俺のことも好きだったらしいんだけど、彼氏のことも振り切れなかったみたいでさ」
ふと、成瀬とサナさんのことが頭の中を過ぎった。
あたしのことを好きでいてくれたけど
サナさんのことを忘れきれなかった成瀬。
…少し似てる、あたしと。
「それを知ったのは別れる時。あいつお腹膨らませてさ、妊娠しちゃったって言いに来たんだよ。だからもう会えないって」
シオンの表情が変わっていく。
ビールのジョッキを持つ手を強く握りしめていた。
「彼氏と別れてなかったこと知って、あぁこんなもんかって思った。結局、俺の気持ち弄んでたんだなって」
「シオン…」
辛かったんだね。
「それっきり連絡もねぇし、こっちからしても返ってこなくなった。まぁお母さんになったから今頃大変なんだろうけどな」
遠くを見つめるような瞳。
だけど、後悔はしてないんだろう。
…わかった。
シオンを初めて見たとき、目がそらせなかったのは
あたしとも、どこか似ていたからなのかもしれない。
「だからお前の気持ちわかるよ。けどまぁ、俺はもう未練なんてねぇけどな〜」
「…シオンも嘘下手くそだね」
「なんか言ったか?」
「…ううん、なんでもない!飲もう飲もう!」
口に頬張るシオンをちらっと見つめた。
…最初はあんなぶっきらぼうだったのに。
お酒の力ってすごいなぁ。
今日出会った見ず知らずの人にぺちゃくちゃ喋れちゃうんだから。
共感できる人に出逢えるなんてすごい。
ある意味、運命だったり?
「…なんてね」