嘘恋
「ほんとお前大丈夫?」
「…うん。眠いだけ」
「ったく。ほら、帰るぞ」
「はーい」
力強い手に引かれて立ち上がる。
「あ、お金…」
財布を出そうとするとシオンがあたしの手を掴んだ。
「いーよ。もう払っておいた」
「へ?いやだって今日はあたしがっ」
「いいって。女にお金出させないよ」
いつの間に…。
そういえば、さっきトイレとか言って席だったけどあの時に払ってくれてたのか。
…これが大人の世界なんでしょうか。
「…ありがと」
…年下のくせに、少し見直した。
あたしの腕を掴む大きい手はあったかくて、力強くて
あったかい。
「タクシー呼ぶから。一人で大丈夫だよな?」
「うん、シオンは?」
「俺はコンビニ寄ってから帰るから」
「そっかそっか」
「おう。今日はありがとな」
「え?」
「いや、話聞いてもらったし。まぁまぁ楽しかったし?」
「素直じゃないなぁ〜!」
「うるせっ」
でも、優しい人なのはわかったよ。
知り合って1日しかたってないけど
すごく近づけた気がするのはあたしだけなのかな。
「あはっ!素直じゃないだけで、ほんとは優しい人なんでしょ?」
「それを俺に聞くなよ」
「…ねぇ、また一緒に飲んだりできるかな?」
ただ素直に、そう思った。
なんとなくこの人といたいって思えた。
すると、シオンは一瞬目を見開いてすぐ元に戻った。
「別にいいけど。」
「やったー!」
「…へんなやつ」
成瀬以外の男の人はね
受け入れられなかったのに。
トキの流れがあたしを変えたのかな。
それとも、この人だから?
「おっ、ほらきたぞ」
「あ、ほんとだ!」
「またな」
「うん!またねー!」
タクシーが来るまで、さりげなく一緒にいてくれたんだ。
……なんだろ、すっごく嬉しい。
タクシーに乗り込み、振り向くと彼の後ろ姿が見える。
「…明日ねっ」