嘘恋
「んで、そこの赤い屋根左」
「左ね…」
シオンが言った通りにどんどん進んでいく。
「で、次に信号渡って左」
「左ね」
「あ、やっぱ戻って。右だった」
「やー。ちゃんとしてよ」
「わりわり。信号渡らないで右な」
「右ね」
「あーミスった左」
「左…っと」
「そこ真っ直ぐいって左」
「左ね…って、行き止まりなんだけど」
「あれ、おかしいな。戻って」
…ちょっと。こいつわざと変なところ言ってない?
「あんたさ、もしかさてウソ教えてるんじゃないの?」
「んなわけねーだろ?」
「…そうですか」
とりあえず彼に言うことを信じるしかないので…付いて行くしかない。
「んで、右いって左いって横行って…」
「おいおい早いから!」
「おーごめん。じゃ真っ直ぐいって右行って…」
「ちょっとっ」
「んでジャンプ」
ぽーんっ。
…って、おい。
「ジャンプってなに!?」
「ホントに飛んだの?」
「ふつうに飛んじゃったよ!」
「ふっ。…面白いなお前」
あ…今笑った?
そうだ。元はと言えばシオンの笑顔を見るためにこんなことまでしてるんじゃない。
くっそぉ携帯越しかい!
「んもぉ!真剣に教えてよ!」
「そこ真横曲がってずっと真っ直ぐ歩いて来い。」
「…え?」
「そしたら青い屋根の家あっから。それおれんち」
「なっ、ウソだったら承知しな…」
プツン。
「へ?」
携帯を耳から離し、画面を見た。
切れてるじゃん!
つか、切られた!?
「んもぉ…なんなのよ」
間違ってたらタダじゃおかないからね?
とりあえず言われた通りに通路に入りまっすぐ歩き出す。
しばらく歩くと、やけに目立つ家があった。
「…これか。」
二階建てのごく普通の一軒家。
青い屋根の家ってなかなか目立つのね。
慣れない手つきでチャイムを押すと、ガチャっとドアが開いてシオンが出てきた。
「遅かったな」
「あんたのせいでしょ!?」
「ごくろうさん」
シオンの手があたしの頭を軽く撫でた。
「…っ。べっべつに!」
なにをドキドキしてるんだあたしは。
こんなガキに!
「…あれ?なんか作ってたの?」
シオンの腰にはエプロンがつけてあり、なんだかいい匂いもする。
「晩ごはんまだだろ?一応、お前の分も作っといた」
「ほんと!?食べたい!」
男の子の手料理なんて…はじめて!
「上がって」
「おじゃましまーす」