嘘恋
「おー!おいしそっ」
テーブルに並べられたパスタと、その他もろもろ。
「一人暮らしだからさ。料理ぐらいは作れなきゃダメだからな」
「あ、そっか。そうだよねー」
「座って。つかその荷物なに?」
「あはっ!ケーキだよ。あとで食べよーね」
プレゼントはこっそり持って
ルンルンっと鼻歌交じりイスに座った。
「いただきまーす」
「どうぞ」
パクッ。
…お?
「おいしー!」
「よかった」
なんだなんだ。
結構できる男なのね。
「もともと料理するほうなの?」
「まぁ少し。高校は料理系のとこ行ったし」
「へー。すごいじゃん」
「…さんきゅ」
すると恥ずかしそうに頭をぽりぽりしていた。
シオンのクセなのかな?
わかりやす!
「そうだっ。今度あたしに料理教えてよ!簡単なやつ」
「えー。卵焼き作れれば十分だって」
「なっ、卵焼きぐらいはふつうに作れますー!」
失礼なやつね。
なんだかんだ話しながらペロリと食べ終わった。
「…あ、そうだケーキ食べよー!」
「わざわざごめんな?」
「え?いんだよもちろん!」
シオンの前にロウソクを立てたケーキを並べた。
ちゃんとチョコ板にはおめでとうってかいてある。
「じゃ、歌いまーす!」
「はーい」
定番の誕生日ソングを歌いながらこっそりプレゼントを握りしめた。
「ハッピバースデーシオン♪おめでと!」
「ありがとな」
ふうっとシオンがロウソクを消した。
「じゃ食べよ食べよ!」
「…てかワンホール買ってきて食べきれんの?」
「もちろん!シオンがね」
「お前がね」
「二人で食べればすぐなくなるって!」
そう言ってケーキを自分の口に入れる。
お…美味しいっ。
やっぱりケーキはチョコだよね。
「ほらっ美味しいでしょ?」
「うん、うまいうまい」
よし、今だ。
「実はね…」
「ん?」
「じゃーん!」
勢いよくシオンの前にプレゼントを突き出した。
「実はプレゼントを買ってきたの!」
「え…まぢで?」
「うん!開けてみて」
かなり驚いてるみたい。
やったね!
「お、時計じゃん」
「そ!高いものじゃないけど、これがいいかなって」
ニコッと笑うと、スーッとシオンの手が伸びてきた。
「ん…?」
「ありがとな」
頭には彼の手の感触。
そして嬉しそうに微笑むシオン。
やっとシオンの笑顔を見られたはずなのに…あたしの心が激しく揺れる。
頭が真っ白になり、トキが止まった気がした。
重なる面影。
ー…成瀬。
「…香奈?」
どうして成瀬が…?
「おい、香奈っ」
「え…?」
はっと気がつくとシオンがあたしを心配そうに見つめていた。
目の前にいるのは紛れもなくシオンで
私の頭を撫でる手もシオンの手。
それなのに…どうして成瀬に見えてしまったの?
どうして…成瀬。
「お前、変だぞ?大丈夫か?」
「うん、ごめん…あたし帰るねっ」
そそくさと立ち上がり、上着をとって玄関へと向かう。
「は?オイ待てよっ。ケーキは?」
シオンの顔が…まともに見れない。
「ごめんねっ、じゃあ」
「おいっ…ー」
ドアが閉まると同時に走り出す。
苦しい。
胸が痛いよ。
今まで顔も、声も、全部薄れかけていて思い出せなかったのに。
どうして今
こんなにもはっきりと…。
視界がにじんできて、街を歪ませる。
なんであたし…泣いてるの?
家について階段を駆け上がりベットにうずくまる。
…似てるんだ。
あの笑顔、そして頭の撫で方。
…シオンは成瀬に似てる。
どうしよう…涙が止まらない。
揺れる携帯のディスプレイにはシオンの名前。
…ごめんね、シオン。
あたしが悪いの。
……だめだね。
あたし、きっとまだ
未練がある。