日和さんの言うことには
高くつくよ
湊 春。みなとはる
なんて読みづらい名前なのだろうか。
この名前のせいで、遥は今日もまた、中国人だと間違えられた。
名前はもうちょっと考えてつけてほしいものだ。
春は拭き終えたレンズを棚にしまった。棚にはいくつもレンズが並んでおり、どれだけ春がカメラにつぎ込んでいるのかなど、一目でわかるほどだ。
春の部屋には3人の学生が来ている。
カメラマンを目指している春は、専門学校に通っている。学科は写真映像科。
他にもその学校には、理容美容科、家政科と、デザイン科がある。
その中の、メイクアップ専攻、ヘアメイク専攻、服飾専攻、そして春が専攻している、アート写真専攻。
それぞれ成績上位者10名。つまり合計40名は、先に開催されるオープンキャンパスにて、ファッションショーを行い、さらにその衣装で雑誌を作る。
そのショーと雑誌の完成度によって評価が上がり、簡単に言えば、将来の職選びがスムーズになる。
春はアート写真専攻で、成績トップ。
もちろんそれに参加せざるを得ないわけなのだが、問題がいくつかあった。
まず、40人いると言った参加者を、大体同じくらいの成績になるよう4人ずつ10チームに分ける。
春のチームメイトになった3人は、正直、とても扱いづらい。
「へえ、名前、みなとはるって読むんだー、なんて読むのか気になってたんだよねー」
いわゆるギャルであるこの女は、島根ゆりあ。目の上に鬱蒼と繁るまつげを羽のように瞬かせしゃべる。
最近、瞬きで風は起こせるのか?なんて事を考えるようになったのは、ゆりあのせいだろう。ゆりあはメイクを担当するが、モデルにギャルメイクされたらどうしようか。
「あたしはそもそも中国人だと思ってたの。日本人でよかったぁ。言葉も通じるもんねっ」
甘いフリフリの服を着たこの女が、星野輝。上目遣いで話しかけてくる、明らかに作られたぶりっ子。デザイナーだが、ピンクのロリータ服なんて提案されても困る。
そして一言も発さないこの男が佐藤千秋。
こいつが輝が考えた服を実際に作るのだが。そもそも意思の疎通をとれない。チームワークが大事なのに、大丈夫か。
心を落ち着けるため、また新しいレンズを取りだし、拭き始めるのだった。