Distopia
夜半の月
鼻歌混じりに軽やかな足取りで、決して人通りの少なくない路肩を駆けていく。
器用に障害物を避けながら、あたかも踊っているかのように見えさえする。

「とかげ~」
「お~」
通り過ぎざまに次々にかかる声を、右手一つであいさつして駆けていく。

とかげと呼ばれたのは、漆黒の髪の少年。
背丈はやや高いくらいだが、その身は驚くほどの細身だ。
しかし、しなやかに猫のようにすり抜けていく。

その手には今しがた購入を果たした戦利品。

今日は月に一度の『マーケット』と呼ばれるフリーマーケットが行われていた。

ただ、他の国で行われるフリーマーケットとの違いは、その殆どが『裏』仕様となっている事だ。
『裏』仕様、つまり、間違っても正規の店では色んな意味で危なっかしくて取り扱いできないものが、わんさかと普通に販売されるという、他国に知れれば軍事攻撃の対象になりかねない事この上ない、とてつもなく恐ろしいフリーマーケットなのだ。
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