雨とumbrella
ザアアアア_________……

放課後、ひとりで図書室で読書にふけっていた私は、外から聞こえる雨の音で傘を忘れたことに気が付いた。
美織も奈々も先に帰っているし、周りを見回しても友達らしき人はいない。
濡れて帰るのが決定した。
「今日はたくさん教科書持って帰らなきゃダメなのにな…。」
と、独り言を呟きながら、私は靴箱のそばでローファーに履き替えた。
一度、扉の前で深呼吸して、走って帰ろうと身構えた瞬間。
「……傘ないの?」
ドキッ。この声は。
振り返ると、昨日の美少年。
「あ…うん。図書室にいたら雨が降ってきちゃって……。」
緊張して上手く話せない。
「…そっか。じゃあ、この傘貸してあげるよ。」
と、彼は紺色の傘を私に差し出した。
「そ、そんなことしたらあなたが濡れちゃう…。いいよ私、走って帰るから。」
「そんなの女の子がやっちゃダメだよ。いいから、ほら。」
「でも………。」
彼はなかなか喰い下がらない。
「わかった…じゃあ、一緒に帰ろう。」
「ええ?!」
大きな声を出してしまって、私は慌てて口を押さえた。
それに、彼がクスっと笑って。
「いいでしょ?ほら。」
パンッと大きな傘を広げて、私を手招きした。
私はおずおずと中に入る。
「失礼します…。」
トン………右肩が触れる。そのことにドキドキして。私は緊張して震える。
「寒い?」
綺麗な顔が覗き込む。
「だ、大丈夫だよ。」
お願いだから、これ以上私に近付かないで。
「貴嶺さんってさあ、いつも図書室にいるよね?」
「えっ。どうして私の名前…。」
「僕もよく図書室にいるから図書室に来る人の顔と名前はよく知ってるんだ。」
「そうなんだ。」
びっくりしたぁーー…。
「そういえば、まだ名前言ってなかったよね。僕1年D組の雛室龍聖(ひなむろりゅうせい)。よろしくね。」
いきなり自己紹介されて、私も慌てて口走る。
「貴嶺逢王です。B組です。」
なかなか合わなかったのは、彼がD組だったからか。D組だけ校舎が違うから、会うのはそりゃ無理だよ。
「逢うに、王…。」
ボソっと呟かれて、びっくりした。
「すごく綺麗な漢字だよね。それもあって、名前覚えたのもあるんだ。」
なんでだろ。
雛室君に名前を呼ばれると、自分の名前が特別に感じる。
「そ、そうかな?」
「うん。だから、これから逢王ちゃんって呼んでもいい?」
神様、このシチュエイションはおいしすぎます。
「う、うん。いいよ。」
そう言うと、彼は美しい顔をくしゃくしゃにしながら笑って。
「俺のことも、龍聖って呼んでくれたらいいから。あ、もう着いた。ここ、僕の家。じゃあまた。傘はあげる!」
一方的に話して、龍聖君は家の中に入ってしまった。

11月5日。
天気は私のあんまり好きじゃない雨。
でも今日の雨は、私の大好きな雨。

初恋の、雨。
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