スセリの花冠
第一章
最期の願い
***
須勢理姫は久々に人間世界を覗いた。
須勢世理姫にとって人間界は遠い世界の絵巻物を読むよりも魅力的であった。
前回人間界を見た時はとても魅力的な男がいたが、しばらく見ていない間にどうも寿命が尽きていたらしかった。
…彼は一体どのようにいなくなってしまったのか…。
人間とは、儚い。
須勢理姫は左手に持った朱塗りの酒器をそっと覗きこみ、クッと意識を集中させた。
するとなみなみと注がれた御酒の表面がわずかに波立ち、たちまち酒器の底がボヤける。
……さあ、この度はどんな物語が待っているのか。
須勢理姫は形の良い唇の両端をフッと上げた。
もうすぐワクワクする時間を味わえるのだ。
ところが、
「……ああ……」
今まで微笑みをたたえていた唇を引き結ぶと、須勢理姫は眉を寄せた。
酒器の底から見た人間界に、ひとりの少女が見える。
これは……なんと不憫な事か。
須勢理姫には一瞬で見てとれたのである。
味気ない部屋に横たわるこの少女の命が、幾ばくもないことを。
須勢理姫は久々に人間世界を覗いた。
須勢世理姫にとって人間界は遠い世界の絵巻物を読むよりも魅力的であった。
前回人間界を見た時はとても魅力的な男がいたが、しばらく見ていない間にどうも寿命が尽きていたらしかった。
…彼は一体どのようにいなくなってしまったのか…。
人間とは、儚い。
須勢理姫は左手に持った朱塗りの酒器をそっと覗きこみ、クッと意識を集中させた。
するとなみなみと注がれた御酒の表面がわずかに波立ち、たちまち酒器の底がボヤける。
……さあ、この度はどんな物語が待っているのか。
須勢理姫は形の良い唇の両端をフッと上げた。
もうすぐワクワクする時間を味わえるのだ。
ところが、
「……ああ……」
今まで微笑みをたたえていた唇を引き結ぶと、須勢理姫は眉を寄せた。
酒器の底から見た人間界に、ひとりの少女が見える。
これは……なんと不憫な事か。
須勢理姫には一瞬で見てとれたのである。
味気ない部屋に横たわるこの少女の命が、幾ばくもないことを。
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