スセリの花冠
「ごめん、怖がらせてしまって。大丈夫かい?」

「……」

愛世はかすかに頷くと、ディアランを見た。

今日は山賊狩りである。

捕らえた山賊は打ち首となり、彼らの財産や略奪品は召し上げられて国益となる。

加えて山賊がさらってきた女子供達はそれぞれの村へと帰されるのが通常だ。

「アイセと言ったな。家はどこだ?送ってあげるよ」

ディアランのその言葉に、愛世は焦って硬直した。

家……。どうしよう。

そんなの、この世界にない。

なんて言おう。

愛世が考えあぐねている間、ディアランは彼女をマジマジと見つめていた。

一方愛世もそんなディアランを見ていた。

まっすぐに愛世を見つめる彼の髪は赤茶色で、同色の瞳はどことなく優しい。

加えてその爽やかな口元には、わずかに笑みが浮かんでいる。

…歳はわからないけど……25歳くらい?

目の前の男……ディアランは、軍神を打ち出した鎧を身にまとい、とてもじゃないけど愛世の知っている日本の青年とは大きく違っている。

愛世はそんな彼にかかえられたまま、一生懸命答えた。

「あ、あの……家はありません。ていうか、あるんだけどこの世界じゃなくて。す、須勢理姫に最期の願いを叶えてもらうためにここへ来たみたいなんだけど、その……」

ディアランは、眉を寄せた。

…スセリビメ?

……この女、大丈夫か…?
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