スセリの花冠
「私、ディアランが好き。すごく好き。…でも近い未来、私は死んでしまうわ。…須勢理姫がこの国に連れてきてくれて、恋が出来て本当に嬉しかった。最初で最後の恋がディアランとで良かった」

ディアランの表情がみるみる陰る。

「アイセ」

ダメだ。泣いちゃダメだ。

鼻がツンと痛くなり、涙が出てきそうになるのを愛世はこらえた。

それから無理やりに笑うと、再び続ける。

「…私が死んでも悲しまないでね。本当は元の世界で命が尽きるのをただ寝て待つだけだった私が、ここで精一杯生きることが出来たんだからすごく幸せなの。だからディアラン、悲しまないでね」

ディアランは愛世の言葉を黙って聞いていたが、やがて苦し気に言葉を返した。

「ドロス神にスセリビメと掛け合ってもらおう。きっと助けてくれる筈だ。今すぐアルフに伝えて巫女と祈祷師を…」

「いいの」

愛世は首を横に振った。

「それより、死ぬまでそばにいて」

ディアランは、きつく眉を寄せて愛世をかき抱いた。

「君に死んで欲しくないんだ」

「本当は私も死にたくない。でもだからって泣くのはさっきでやめたの。もう泣かないわ。それより笑っていたい、ディアランと。私が死ぬその日まで、ふたりで笑い合いましょ!楽しいことを探すのよ。笑顔でいると約束して。死がふたりを分かつまで」

死が……ふたりを分かつまで…。

ディアランは頷いた後、再び愛世を抱き締めた。

涙を見せたくなかった。
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