スセリの花冠
……俺と一晩過ごすより、兵に紛れて外で寝たいと?

ディアランは、拒否された事に僅かながら傷ついた。

今までどんなことであろうが、女を誘って断られた事など一度たりともなかったからだ。

はっきり断った愛世の瞳は真っ直ぐにこちらを向いていて、ディアランは愛世がわざと焦らしているのでも、冗談で断っているのでもないことに気づいた。

なんという屈辱なんだ。

…ティオリーン帝国一の策士でもあり武術に長けた自分が、こんなか弱い女に鼻もひっかけてもらえぬとは。

……ならば。

ディアランは、こちらを心配そうに窺う愛世を困らせてやりたくなった。

そこでわざとこんな言葉を投げてみる。

「野営の兵に紛れて眠りたいというのか。これはとんでもなく手馴れたことだ」

愛世はビックリしたようにディアランを見た。

……なにそれ。

私が沢山の男の間で夜を過ごしたいって思ってるわけ?

それを楽しみにしているとでも言いたいの?

愛世は眉を寄せた。

残念だと思ったからだ。

この端正な顔立ちの近衛兵隊長ディアランは、私を軽々しい女だと思っているんだ。

そうじゃないのに。

ただ私は精一杯生きて、本当に真剣に生きて、残りわずかな人生を楽しみたいだけなのに。

だから出逢ったばかりの男と、行きずりの関係など持ちたくないだけなのに。
< 16 / 168 >

この作品をシェア

pagetop