スセリの花冠
そんなディアランの胸の内も知らず、愛世は一瞬でもディアランを疑ったことを申し訳なく思った。

目の前のディアランは鎧を脱ぎ夜着一枚の姿で、厚く逞しい胸がチラリと見えている。

けれど艶かしい雰囲気はなく、彼の赤茶色の瞳は優しいし、頭におかれた大きな手は温かい。

愛世はディアランを本当に素敵な人だと思った。

……良かった!

異国で最初に仲良くなれたのがディアランで、本当に良かった。

幸せな思いで愛世はディアランにこう言った。

「実はね、ディアラン。私、この国には家がないの。ディアランは私を家に帰してやると言ってくれたけど……それは無理なの。私、これからどうすればいいんだろう……」

ディアランは、愛世の言葉を黙って聞いていたが、彼女の髪をクシャッと撫でながら微笑んだ。

「心配しなくてもいい。しばらくは俺の家に泊めてやるから。勿論、なんにもしない」

それを聞いて愛世は、安心したように肩の力を抜いた。

「本当?嬉しい!ありがとうディアラン。……それと……ディアラン。もしよかったら私と友達になってくれない?」

……友達。

ディアランはそんな彼女を見て参ったと思った。

ティオリーン帝国の近衛兵第一番隊隊長という地位は、かなり上位だ。

一般の民と誰かれ構わず気軽に友達になれるような地位ではない。

このディアランを、友達とは。

笑い出しそうになるのを一生懸命堪えながら、ディアランは口を開いた。

「友達か、いいだろう」

短い友達関係もまた、楽しいかも知れない。

そう考えたあと、愛世に優しくこう言った。

「一緒に帰ろう。わがティオリーン帝国、ティサの都へ」
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