スセリの花冠
「……そうか」

アルファスはそんなふたりを見つめていたが、やがて頷いた。

「ディアランの女か。相変わらず手が早いな。この一週間の間にもうものにしたか。まあいい。ではお前の屋敷に入れてやれ」

「ありがたき幸せ」

……怪しい者じゃないだと?見たこともない服を着て、見るからに怪しいじゃないか。

…他国の間者という線も考えられる。

この女……あどけない顔をしておいて帝国きっての軍師に色仕掛けか?

……まあいい。

ディアランがこの女に狂っているなら、代わりに俺が化けの皮を剥いでやろう。

そう思ったアルファスは、愛世を見つめたまま男らしい口元に浅い笑みを浮かべた。


****

「凄いお屋敷……!」

愛世は驚いてディアランの屋敷を見回した。

この国の家というのは、愛世が知っている日本の建物とはまるで違うが、装飾が施された石材と、金や銀の糸を編み込んだ綺麗な布などで飾られており、大変立派であった。

ディアランの屋敷はアルファスの住む宮殿からさほど遠くないらしいが、愛世には地理的な事は全く分からなかった。

連れてきてくれた使用人に屋敷の一室で待つように言われ、愛世はお礼を言うとペタンと床に腰を下ろした。

……綺麗……。

女神をかたどった水瓶、お洒落なランプ、ガラスのない窓にかかる揺れる絹のカーテン。

どれも異世界の香りがして、愛世はホッと息をついた。

須勢理姫…。
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