スセリの花冠
「うん。この国にもなにか私に出来る事があるかも知れないもの。しっかり働くわ」

ディアランは少し呆れて、笑いながら首を横に振った。

「ダメだ」

たちまち愛世が首をかしげた。

「……どうして?」

どうしてって…ダメに決まってるじゃないか。

ディアランは愛世を、自分以外の男の眼にさらしたくないのだ。

だがそう言うと気持ちがバレる。それではこちらが不利になる。

ディアランは言わせたいのだ。

愛世に「愛している」と。

……してやる。

愛世を、このディアランの虜に。

****

「出来るだけ早く帰るよ」

「分かった」

ディアランは山賊討伐の勝利を祝う宴に出席しなければならず、愛世にこう言い残すと屋敷をあとにした。

残された愛世はひとりで夕食をとり風呂に入ったものの、時間をもて余していた。

……どうしよう。眠れない。……散歩にでも行こうかしら。

愛世は思いきって部屋を出ると、屋敷の外を目指した。

「素敵……!」

ディアランの屋敷のまわりには手入れされた庭園が広がり、遊歩道や池があった。

しかも蜂蜜色のランプが方々の木々に下げられており、なんとも幻想的で美しい。

「今日は満月なのね」
< 29 / 168 >

この作品をシェア

pagetop