スセリの花冠
ティオリーン帝国の軍師を丸め込もうなど百年早いわ。

アルファスにとってディアランは、大切な友であり兄である。

今までの戦いで我が軍が負け知らずなのは、ディアランの活躍が非常に大きい。

アルファスは剣も学問もディアランに勝ったためしがないが、それゆえにディアランを慕い尊敬しているのである。

だが戦いと女は別物だ。

いくら策士でも女に溺れるとどうなるか分からない。

ディアランは眉目秀麗な容姿を持ち、女に絶大な人気を誇っている。

言い寄る者は少なくない。

気が向くとディアランはその女達の中から一晩の相手を選んで恋を楽しんでいた。

だが、愛世はそんな女達とは全然感じが違うのだ。

だから余計に、アルファスの眼には愛世の何もかもが変に見えた。

ディアランが帰還した夜の服装といい、話し方といい、全てが怪しすぎるのだ。

「吐け。目的は何だ」

黄金色の瞳が苛立たしげに光る。

一方愛世は逞しいアルファスにのし掛かられ、窒息寸前である。

く、苦しい…!もうだめだわ。

「……最……低」

絞り出さなければ出ない状況でありながら、殆んど息だけでこう言った愛世を、アルファスは睨み付けた。

「騙して取り入る方が卑怯だろ」

「だから……違うっていってるじゃないの。決め付けないでちゃんと見なさいよ!それでも王なの?!」
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