スセリの花冠
こ、こいつ…もう許さん。

牢にぶち込んでやろうとアルファスが身を起こしたその時だった。

「アルフ、やめるんだ」

静かだがしっかりとした低い声が響き、アルファスは上半身だけで振り返った。

「なんのつもりだ、アルフ。アイセは俺の客だと言っただろう」

ディアランは諭すようにこう言うと、アルファスの腕を引き上げて立たせた。

それから愛世を起こすとその肩を優しく抱きよせる。

「大丈夫か?」

「……ディアラン……」

愛世はホッとしてディアランの服を掴んだ。

大きな瞳は涙で潤み、長い睫毛が少し震えた。

「大丈夫だよ。王はお戯れが過ぎただけだから。酔ってるんだ。宴がたいそう盛り上がってね」

…酔ってなどいるものか!

思わずムッとしてアルファスはディアランを睨んだが、ディアランは素知らぬ顔で愛世の衣を払い、草を落とした。

「客人を部屋へお送りしてまいります。お休みなさいませ、アルファス王」

「待て。まだ話は終わってない」

「王よ。あなたは少々酔っておいでです。今宵はもうお休みになられた方が良いかと」

「っ……!」

ディアランは分かっていた。

アルファスが王となってからというもの近隣諸国との小競り合いがあとを絶たず、それが焦りにも似た苛立ちを生んでいるのを。

アルファスはディアランよりも三歳年下の若き王である。

まだ未熟なものの、自分よりも大きな可能性を秘めた男だ。
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