スセリの花冠
「アイセ。もしよければ、これから街に出ないか?」

愛世は動きを止めてディアランを見た。

「街へ?どうして?」

「髪飾りを買ってやろう。それに化粧道具も」

愛世はさらりと首を振った。

「ありがとう。でもそれはダメだわ」

「なぜ?」

「何故って……友達にそんなの買ってもらえない。変だわ」

…また友達か、弱ったな。

ディアランの知っている女達は、何か買ってやろうと言うとそれは喜び顔を輝かす。

皆、いかに自分の服や装飾品が高価なものであるかを競い合うのだ。

だが、愛世はまるで違う。

破れた服は縫って着るし、身体を飾ろうともしない。

今、宮廷の女達の間ではアメジストの腕輪が大流行しているが、愛世は一切興味を示さない。

かといって身なりに気を配らない性格なのかと思いきや、誰かにもらったとかいうクリームを肌につけたり顔をマッサージしたり、髪の分け方をかえたり編み込んでみたりと、興味が無いわけではなさそうだ。

「いいじゃないか。俺に君の髪飾りを買わせてくれ」

ディアランがそう言うと、愛世は机の花瓶から一輪の花を抜き、それを髪に挿して笑った。

「これで充分よ。ディアラン、ありがとう」

そう言ったかと思うと用事があるからと、いそいそと席をたってしまった。

……俺の事は眼中にないのか。

ディアランは窓辺に歩み寄ると、荷物を抱えながらどこかに出掛けようとしている愛世を見つめた。

俺の女神様は……何処にお出掛けになるのか。

マントに縫い付けてあるフードを被ると、ディアランは静かに立ち上がった。
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