スセリの花冠
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愛世は近衛兵の宿舎へ向かった。

ディアランにつけられているなど露知らず、歩を進めた。

近頃は掃除のみならず、兵達の繕い物を頼まれる事もあり忙しかった。

宿舎につくと、愛世を待っていた兵達は手を上げて彼女を呼んだ。

「おう、アイセ!待ってたぜ」

威勢よく声をかけ、セロがニコニコ笑っている。

「セロ!」

ザクロの木の陰で様子を見ていたディアランは、苦々しく口を引き結んだ。

愛世に近寄り、彼女を抱き締めたセロに思わずムッとする。

…セロの奴め。

それによく見れば自分の部隊だけでなく、他の部隊の近衛兵までがアイセから何か受け取っているではないか。

「いつもすまないな、アイセ」

「妻の悪阻がひどくて…助かったよ」

愛世はそんな兵達に、

「お役に立てて良かったわ!いつでも言ってね!」

などと言いながらニコニコと笑っている。

……そんな顔で、笑うな。

ディアランは今にも飛び出していきたかったが、後の状況を想像しグッと抑えた。

「じゃあな、アイセ。また頼むぜ!」

「うん、またね!」

やがてセロ達は去り、愛世は宿舎の中へ入って行った。
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