スセリの花冠
その時、ちょうど宿舎の掃除係がディアランの脇を通るところで、彼は素早く声をかけた。

「さっきの黒髪の女は?」

するとディアランとは気付いていない掃除係は、

「アイセですか?最近入った新入りです。身重のリリアの代わりですよ」

「どんな女だ?」

すると掃除係は笑いながら答えた。

「よく気がつくいい娘ですよ。誰に対しても親切で、控えめかと思えば言うべき事はしっかり言うし。この間なんかティゲルがアイセのお尻を触ったら、アイセは叩き返しながらこう言ったんですよ。女性のお尻を気安く触るなんてレベル低いわよってね!レベルって意味わかります?レベルとは…」

「分かった、もういい」

目眩がしそうになり、ディアランは片手を上げて彼女の話を遮った。

……とにかくダメだ、やめさせてやる。

*****

アイセが近衛兵の宿舎を出た頃には、もう大きな夕陽が沈もうとしていた。

…今日は、疲れた。

仕事仲間のリンが、手作りの薔薇のオイルをくれたから、それをお風呂に入れて入ろうかな。

そう思いながら歩いていると、愛世はついうっかりしていつもの道を曲がり損ねた。

……まあいいわ。

次を曲がろう。

しばらく進むと宮殿が見えてきて、兵達が松明を燃やしているところだった。

もうすぐ暗くなる。

城内の敷地は夜でも明るく危険はないときいていたが、やはり愛世は道を急ぎ、池の側の木々の間を突っ切って帰る事にした。
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