スセリの花冠
それから今度はアルファスがディルの首に腕を回して引き寄せると、周りの者も嬉しそうに声を上げた。

愛世は遠く離れた場所ではしゃぐアルファスから眼が離せないままだった。

親ほど年の離れた者達に、凛とした立ち居振舞いで指示を出す姿は正に王に相応しかったが、今のアルファスは屈託のないどこにでもいる若者である。

そんなアルファスを見ながら、愛世はなんとも言えない気持ちになった。

なんだろう、この気持ち。

アルファスを見ていると何故か胸がざわめく。

どうしてなんだろう。

短気だけど真っ直ぐなアルファス。

恵まれた容姿で見る者を魅了するアルファス。

彼の事を考えると……胸が苦しくなる。

その時、愛世の視線の先を追ったディアランが静かに口を開いた。

「アルフはやめておけ」

「っ……!」

胸に矢が刺さるような痛みが走る。

やめておけ、というディアランの言葉に愛世は心臓が止まりそうになった。

そんな愛世に一歩近づき、ディアランは思いきって口を開いた。

「俺じゃダメか?」

切なげな光を浮かべたディアランの瞳が愛世を捉える。

……ディアラン……。

どう言っていいかわからず、愛世は困った。

「俺じゃダメなのか」

ディアランの真剣な眼差に、彼の気持ちが窺える。

なのに愛世はその思いをどう受け止めるべきか分からず、彼を見ていられなかった。
< 76 / 168 >

この作品をシェア

pagetop