スセリの花冠
その時であった。

一際高らかな音楽が響き、愛世を含め皆が気を取られて顔を上げた。

するとそれを待っていたかのようにきらびやかな衣装の女性達が登場し、花のような笑顔を見せる。

この七日間に何度も演舞が披露されたが、式典最後の締め括りとあって、踊り子の数は最多である。

天女の羽衣を思わせる薄絹を身にまとい、蝶のように舞う女達は大変美しく、見る者を魅了した。

愛世は思わず微笑んだ。

……素敵……とても綺麗だわ。

アルファス達の宴会の輪にも踊り子が数人舞い乱れているのが愛世からも見える。

そんな中、アルファスは酒をあおりながら仲間達と談笑していて、さして踊り子に気を留めていないようであった。

愛世はそんなアルファス達を見ているうちに、ふと違和感を覚えた。

…なにか変だわ、あの踊り子。

アルファスのすぐ近くの踊り子がしきりとアルファスに眼を向け、周りの踊り子とどこか違う動きをしているのだ。

アルファスを見ては自分の腰の辺りを探り、必要以上に彼に近寄ろうとする。

アルファスが体の向きを変えるとさりげなく腰から手を離し、再び皆と同じ振り付けで踊る。

何度かそれを繰り返しているうちに、踊り子は腰から何かを素早く引き抜くと、それを掌に握って隠した。

あれは、もしかして…!

その全体はよく見えなかったが、愛世には尖った先がキラリと光った気がした。

言い様のない不安を感じて、踊り子から眼を離せない。

踊り子の右手は、確実に何かを握っている。
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