スセリの花冠
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愛世は宮殿へと運ばれ、医師達は懸命に治療を続けた。

エリーシャの放った短剣は幸いにも心臓を外れていたが、愛世は出血が酷く危うい状態であった。

医師達は持っている全ての医術を惜しみ無く使い、後は祈る以外に方法がなかった。

ここからはもう、愛世の生命力次第である。

アルファスは土気色で横たわる愛世の傍で膝をついた。

それから山賊頭領ギアスの妻と名乗ったエリーシャを思い返す。

アルファスは、エリーシャがギアスの敵討ちの為に近づき、愛世を刺した事に驚いていた。

あの女……エリーシャは気付いていたんだ。

俺の、アイセへの気持ちを。

気付いていたからこそ、愛世を刺した。

愛する者を亡くした悲しみと苦しみを、自分と同じ辛さを、俺に味わわせたかったんだ。

なんという激しさなのだろう。

愛と言う名の狂おしくも恐ろしい感情に、アルファスはなす術がなかった。

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「エリーシャの亡骸をギアスと一緒にしてやってくれ」

愛世が宮殿に運ばれてすぐ、アルファスはディアランにこう指示を出した。

それからすぐに祈祷師と巫女による悪魔払いの儀式が執り行われた。

ドロス神に生け贄の雄牛100頭が捧げられ、次の満月に悪鬼が甦らぬよう聖火を絶やさず祈り続けるのだ。

アルファスは意識のない愛世に誓った。

「次の満月の夜、たとえエリーシャが悪鬼となって甦ろうともこのティオリーン帝国は俺が守る。民の命も必ず守る。だからアイセ、死ぬな。死なないでくれ」
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