スセリの花冠
この国の軍師としても近衛兵隊の隊長の座も、アルファスの兄役としても。

ディアランは全てにおいて自分にはなんの資格もないと思った。

そして……愛世に愛を語る資格も。

セロは切なそうに夜空を見上げているディアランの横顔を、ただ見つめることしか出来なかった。

****

愛世が目覚めて一週間が経った頃、ようやく胸の傷も塞がり始め、医師から散歩の許可がおりた。

それはエリーシャに刺された満月の夜から、九日目の夜であった。

「ダメだ、朝まで待て」

「嫌よ。夜空を見たいわ」

顔を見に来たアルファスにたしなめられたが、愛世はちょっとだけと立ち上がった。

気候も良かったし、どうしても星を眺めたかったのだ。

「なら、俺が付き添う」

アルファスは諦めたように笑うと、愛世の肩を抱いた。

その少しだけ強引な腕に、愛世はドキッとしてアルファスを見上げた。

「ア、アルファスったら……大丈夫だよ」

焦った愛世の顔がなんとも可愛らしくてアルファスもまた気恥ずかしくなり、乱暴に言葉を返す。

「転んだらどうするんだ。俺が一緒でないなら…ダメだ」

アルファス……。

愛はやたらと激しくなる鼓動に観念して答えた。

「分かった……じゃあ、一緒に」

その言葉に、アルファスが彼女の手を求める。
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