スセリの花冠
その仕草はとても洗礼されていて、愛世は恥ずかしさのあまり赤面した。

こんな時、どうすればいいか分からないわ……。

辺りを払うような若き王アルファスに、愛世は堪らなく惹かれた。

***

ディアランは松明の燃える中、寄り添うように歩くアルファスと愛世を遠くから見つめた。

愛しそうに愛世を見るアルファスを目の当たりにし、胸に焦げるような痛みを覚える。

ディアランは、あれからまだ愛世に会っていなかった。

久し振りに見た愛世は少しやつれているように見えたが、相変わらず可憐で美しかった。

ディアランは改めて思った。

俺は愛世を愛している。

彼女の身の上は知らなかったが、いつか二人で語り合う日が来ると信じていたし、たとえそんな日が来なくとも、今の彼女といられるなら過去はどうでも良かった。

いつの間にか、彼女のすべてを心から愛してしまっていたからだ。

あまりの切なさにディアランは眉を寄せた。

それからこれまでを思い出し、今までこういう時はどうやって乗り越えてきたのかを考えた。

けれどすぐそれは無意味だと悟った。

何故なら、今までにこれほど恋い焦がれた相手など存在しなかったからだ。

ダメだ。こんなことでは。

国を……王を、民を守るのに支障が出るのは避けなければならない。

ディアランは思いきったように手綱を引き、愛馬ラージアの頭の向きを変えた。

空に浮く半分に欠けた月は、まるでディアラン自身のようであった。
< 90 / 168 >

この作品をシェア

pagetop