スセリの花冠
愛世は頬を流れる涙を拭かなかった。

泣けるだけ泣きたかった。

涙が枯れるまで泣いたら、ディアランを忘れられるだろうか。

そうだ私、どこへ帰ればいいんだろう。

もうディアランの屋敷へは帰れない。

かといってこのままアルファスのいる宮殿には住めない。

だってアルファスへの感情の正体がなんなのか分からないし、彼の気持ちを知っていて戻るなんて利用するようで卑怯だもの。

愛世は歩くのをやめてうずくまった。

この国に、居場所なんかもうない。

誰か、助けて。

そうだ、須勢理姫に……。

愛世は須勢理姫に会いたかった。

そして、謝りたかった。

須勢理姫……私、あなたにせっかく恋をするチャンスをもらったのに、その恋をダメにしちゃった。

こんなに素敵な国に送ってもらったのに、なんの役にも立てなくておまけに刺されて怪我しちゃったの。

もう、どうしたらいいか分からない。

ごめんなさい。本当にごめんなさい、須勢理姫。

愛世は空を仰ぎ須勢理姫を呼ぼうとした。

「アイセ?」

その時急に名を呼ばれて、愛世は反射的に振り返った。

セロだった。

「セ、ロ…」

「お、おい」

驚いたセロは、愛世の涙でグシャグシャになった顔を咄嗟に自分のマントで拭いた。

「どうしたんだ?!まだ痛むのか?!」

「違うの…わ、私、私……!」

「アイセ、しっかりするんだ」

セロは愛世の二の腕を掴み、しっかり立たせると真っ直ぐに彼女を見て言った。

「アイセ。何があったんだ。俺を信じて、俺に話せ」

愛世は泣きながら頷いた。
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