スセリの花冠
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ディアランは、胸が焼け付くようで苦しかった。

『さようなら、お兄様』

冷たく言い放った愛世の声が忘れられない。

それが身から出た錆だと分かっていても苦しかった。

愛世を愛している素振りを見せながら他の女を抱いた自分を、彼女は軽蔑しているはずである。

ディアランの脳裏に、アルファスの姿が浮かぶ。

それから、いつかしたこの会話も。


『なんで同じ女なんだ』

『許せ、ディアラン』

『アイセは俺を好きになる。絶対にだ』

『アイセの心を掴むのは、この俺だ』


もうずっと長く、ディアランはアルファスを大切に思ってきた。

だから弟のように可愛がっている若き王と、恋の争いなどしたくはなかったのだ。

それからアルファスの愛世に対する想いが本物だと分かった今、その愛を壊したくなかった。

いずれアルファスは世界に立つ男である。

彼の世界を統一するという夢は、既に始まっている。

その夢には常に危険が伴い、いつ闘いで死ぬかも分からない。

それに近い将来恐らく、同盟を結んだ他国の姫との婚姻話が持ち上がるだろう。

たとえ愛世とアルファスの恋が悲劇的な結末だとしても今、ディアランはそれを邪魔したくなかったのである。

ディアランは愛世を諦めるのがこんなにも辛いとは想像していなかった。
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