スセリの花冠
何人かの女と付き合えば傷は浅くなり、やがて忘れるだろうと思っていた。

ディアランにとって女との出来事は、今までその程度の事でしかなかったからだ。

彼にとって一番大切なのは王の命と民、国を守る事である。

それらを守るためにあらゆる策を練り、問題を打破することがディアランの生き甲斐だったのだ。

だが今はどうだ。

何もかもが色褪せていて、輝くようだったティオリーン帝国が、灰色に見える。

ディアランは奥歯を噛み締めて上を向いた。

だめだ。ダメだこんなことでは。

俺はディアランだ。ティオリーン帝国きっての軍師ディアランだ。

大きく深呼吸し、ディアランは目を閉じた。

両目を開けた時には、もう振り返らないと決心した。

****

愛世は池の側に座り、セロに全てを話した。

もとの世界で治らない病気にかかり、死が迫っていた事。

須勢理姫に人生最後の願いを叶えてもらうべく、この国に来た事。

アルファスに好きだと言われ、彼に惹かれた事。

ディアランには恋人がいた事。

いつの間にかディアランを好きになっていた事。

セロは、黙って愛世の話を聞いた。

それから小さく息をつくと空を仰ぐ。

「アルファス王には誰だって惹かれてる。男でも女でもな。俺達の王は憧れそのものだ」

若さゆえに粗削りではあるが、彼は正しく帝国の王にふさわしい存在である。
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