私と執事

雨が葉をうつ音が辺り一面に広がる。
呻いて肘をはる。
下に見えた黒いタイ、泥がはねた白いシャツ。
「怪我、ありませんね？」
彼が私の下にいて。
「ごめん、」、上からどけようにも彼の腕が私の身体に巻かれる。
「………何するの」
「何も。ただ、これもアリだな、と」
彼の手が私の頬を撫でる。
雨水は冷たいのに彼の手はとても温かい。
反比例した中、私は───

「………馬鹿」
引き寄せられるまま、雨の中、彼に委ねる。
でもそれは一瞬。
風邪を引くと大変だから、腕から逃げて切った紫陽花を探す。
すぐそこにあって、雨水と一緒に泥を払う。
隣で泥だらけの黒いベストを脱いだ彼が、泥を払って、
「随分汚れましたね、お風呂の用意を致しましょう」
いつもの彼───執事に戻る。
「そうね、お願いするわ。でもその前に、花瓶に活けないと」
紫の紫陽花が、茶に色を変えないように。
降りしきる雨の中であった出来事は、秘密に雨水へ溶ける。