シローせんぱいのこと。
「おはよ、えな」
「おはよ、じゃないですよー!どうしてくれるんですか!このさむいのにアイスコーヒーって!」
「ん。この時期にまだアイスコーヒーを置いてるこの学校の自販機に問題があるって、俺も前々から思ってた」
「問題があるのはシローせんぱいです!」
よく冷えたコーヒーを手に半泣きで怒るわたしに、シローせんぱいはいつも通りの無表情で言うと「はいはい、ごめんね」と口先であやまる。
だけど、その態度が反省していないことなど、誰が見たって明らかだ。
「許しません……わたしがお腹こわしたらどうしてくれるんですか!」
「んー……あ、じゃあそしたら抱きしめてあっためてあげる」
「え!?」
だ、抱きしめて……!?
その言葉につい過剰に反応して、顔をぼっと赤くさせると、シローせんぱいは少し驚いてから小さく笑う。
「……えなは純粋だねぇ」
「か、からかいましたね!?」
「うん。……けど、そんな可愛い反応されたら、本当に抱きしめたくなる」
「えっ!?」
またこれも冗談なんだろう。
だけど目の前のシローせんぱいは、優しい瞳にわたしの顔をうつして、細い指先でわたしのくるくると巻いた毛先に遊ぶように触れる。
そんなふうに近づかれたら、笑えないよ。また全身が、熱くなる。