シローせんぱいのこと。
「おいこら、シロー。お前なに後輩口説いてんだよー」
その時、うしろからかけられた声に、わたしははっと我に返る。
見ればそれは、3年生の男子たち。シローせんぱいほど明るい色ではないけれど、みんな茶色やベージュ色の派手な髪にピアスやアクセサリーをしている。
そう、日頃シローせんぱいとよく一緒にいる人たちだ。
「園芸委員の仕事終わったんだろ?早く教室行こうぜー」
「ん。今行く」
その人たちに呼ばれ、シローせんぱいはわたしの髪からそっと指をほどく。
「じゃあね、えな。……また、昼休み」
そしてくしゃくしゃと頭を撫でて、去って行った。
あたま、なでられた……。
うれしい。シローせんぱいとの距離と、ふたりだけの秘密の合図のような『昼休み』の一言。
さっきまで寒かったはずなのに、体中の熱が今になって沸騰しそうにこみ上げてくる。
手元のコーヒーの冷たさすらも、気にならないくらい。
あついよ、ドキドキする。
あぁ、やっぱりスキ。だいすきだなぁ。
そんなことをしみじみと思いながら、遠くなるシローせんぱいの後ろ姿を、わたしはずっと、ずっと見つめていた。