シローせんぱいのこと。
「今日昼も来なかったから、なにかあったのかと思った」
「えへへ…授業中ねてて寺田先生に怒られてて」
「あー、寺田ね。あいつうるさいもんねー」
同じように怒られた経験があるんだろう。シローせんぱいもうんうんと頷く。
「ってことは、これ罰掃除だ」
「はいっ、そうなんです」
「あいつ罰掃除かせるのすきだもんねー」
この口ぶり、罰掃除も経験済みなんだ……!さすがシローせんぱい!
表情ひとつかえず淡々と話しながら、寒そうに手をポケットにいれるシローせんぱいに、ふと思い出す。
「そういえばシローせんぱい、この前セーターすみませんでした。汚れ落ちましたか?」
「あー、うん。余裕」
シローせんぱいがみせたセーターには、シミひとつない。
本当はあの日わたしが持ち帰って洗うと言ったのだけれど、『大丈夫』と言いはってシローせんぱいは頷かなかった。
なにかお礼を、とも思ったけどシローせんぱいの好みも知らないし……!
「それより、えなが元気でなにより」
シローせんぱいはそう笑ってわたしの頭をよしよしとなでる。
そのやさしさに、こころのおくできゅーんとときめく音が聞こえた気がした。
だからもう、そうやって触れられるとだめなんですってば。