シローせんぱいのこと。
「気をつけるんだよー?シロー手ぇ早いっていうから!」
「えっ!?」
「早くないし。さっさと向こう戻れば」
「言われなくても戻りますぅー」
シッシと手で払うシローせんぱいに、アヤさんは「じゃあねー!」と去っていく。
なんだかいるだけで華やかになる人だなぁ……。
ふたりきりとなりまた静けさの戻る中庭で、シローせんぱいは呆れたように溜息をつく。
「……シローせんぱい、手が早いんですか?」
「本気にしないの」
イメージがつくような、つかないような……。
少し高い位置にあるその顔を見上げてとうと、シローせんぱいはわたしの頭に軽くチョップを食らわせた。
「……」
シローせんぱい。
せんぱいが手が早いとか、そういう話よりわたしはふたりしか入れないその空気のほうがショックです。
ふたりだけの、仲のいい空気。
わたしは入れない、世界。
やっぱりすきなんだって実感してしまって、心が苦しい。
シローせんぱいは、アヤさんがすきなんだ。
わたしは、シローせんぱいがすきなんだ。
今この瞬間も、互いにこころは届かない。