シローせんぱいのこと。
「あ、あの……シローせんぱい、」
「……言って。教えて」
近付く距離。目の前の瞳は真剣で、目を逸らすことすらさせてくれない。
心臓がドキ、ドキ、とうるさい。
なんで、そんな気にしたりして……こんなに近付いて。
ついさっきまで苦しさでいっぱいだったはずの胸が、破裂しそう。
「おいコラそこー!!なにしてるんだー!!」
「わっ!」
するとそのとき、遠くからかけつけてきたのはジャージを着たいかつい体の男性……寺田先生。
怒りに目をつりあげた先生は猛スピードでかけつけると、私とシローせんぱいをひきはがす。
「掃除中にイチャイチャするんじゃない!罰掃除をなんだと思ってるんだ!」
「……ちょっと、寺田センセー。俺たち今大事な話してるんだけど」
「そんなの関係あるか!ったく、町田!掃除はもういいから課題やれ!課題!」
「ええ!?」
そしてわたしの首根っこをつかむように、ズルズルと連行して行った。
その場には、シローせんぱいひとりを残して。
このタイミングでこれって……よかったような残念なような。
先生に引きずられながら、真っ赤に染まる頬を両手でおさえる。
ああ、どうしよう。まだ熱い。全身が熱い。こころがドキドキして、どうしようもない。
……あのままだったら、どうなっていたんだろう。
言えていたかな、自分のきもち。
『好きな人は、あなたなんです』って。
もしかしたら、の想像と、シローせんぱいのこころ。わからないけれど、このこころはまだ、ドキドキとうるさいまま。